蓄音器って?


蓄音器ってそもそもどんなん?っていう人の方が圧倒的に多いと思いますので、簡単に説明を…

◆蓄音器で聴けるレコードは?
円盤式の場合は俗にSP盤と呼ばれているレコードです。シリンダー式のものは日本では蝋管と呼ばれている
お茶筒見たいな物です。ここでは大多数であるSP盤に絞って説明をします。
SP盤には大別して10インチ盤と12インチ盤があります。素材はシェラックと言うラックカイガラムシから
取れる天然樹脂の一種を基材に作られており、ある程度硬度がある反面、割れやすく、変形もしやすい物です。
LPレコードでは常識的に立てて保管しますが、SP盤は寝かせて保管しないとソリや歪みが発生します。
厚みもかなり有り、SP盤に慣れるとLP盤がなんともふにゃふにゃで頼りない物に感じてしまいます。
LPから見たソノシートくらいの感覚でしょうか(笑)
ちなみにSPとはスタンダードプレイの略で、LPはスタンダードに対してのロングプレイと言う事です。


◆録音形式の違い
蓄音器の初期は「機械録音」と呼ばれる方法で録音していました。レコードを作るための原盤に、メガホン
のような吹込み口とカッティング針が直接つながっていて、このメガホンに向かって演奏するわけです。
とにかく大音量、大声量で吹き込まないと録音できませんので、大変な作業でした。また位置がずれると
録音レベルが極端に変わってしまうので、演奏者は直立不動で演奏しなければならず、相当な重労働でした。
(逆にこれを利用してピアニッシモのときは近くに寄って、フォルテシモも時は離れて演奏する事で音量の
バランスをとると言う"技"を使う事もありました。)
このメガホンに向かって録音する様子から録音の事を「吹き込み」と言うようになりました。
1925年より「電気録音」時代に入ります。これはマイクロフォンを通して音を電気信号化してアンプを経由し
原盤をカッティングする手法で、演奏者は不自由な録音から開放され、ようやくのびのびと録音作業を行える
様になりました。音質的にも目覚しい改良がなされました。
収録時間は片面約5分弱で、機械録音から電気録音の初期までは1枚のレコードの片面のみを使う「片面盤」が
ほとんどでした。プレス技術の向上と共に、両面が使用され、1枚のレコードで10分弱の収録が可能になりまし
た。交響曲など長い曲は組物と呼ばれ、レコード数枚にまたがっており、立派なアルバムに収められています。


◆回転数の違い
SP盤は78回転という事で通っていますが、実はかなり色々な回転数が存在します。
特に機械録音時代は、録音技師がその場で曲や演奏家などの特性を考慮して回転数を決定していた事もあり
一様ではありません。回転数を明記してある盤は良いのですが、そうでない場合は音合わせをして回転数を
確認したり、レコード番号を手がかりに当時のレコードカタログを参照したりします。


◆蓄音器の原理
レコードに刻まれた溝を、コンパスの先のような鉄針でなぞって振動を拾い、振動板と呼ばれる円形の薄い
マイカやジュラルミンの薄板で増幅し、ホーンに送ります。
このレコードから音を拾う、現代風に言えばピックアップの事をサウンドボックスと言います。日本では唄口
等と呼ばれていましたが、これが蓄音器の音質や音量を決定的に左右する部位であり、まさに蓄音器の命であ
ると言えます。
サウンドボックスの原理は糸電話と同様です。ためしに紙コップに針をつけてレコードにかけても再生できます
(音は悪いですが)原理は単純ですが、実際は非常に巧妙に、精緻に計算されています。
また電気録音時代以降のエキスポーネンシャルホーンと呼ばれる、理論計算に基づいたホーンを搭載するに
至って、何でこんなにすごい音がするの??と思うほどになります。くどいようですが、電気は一切使って
いないのに…です。(大型の機種は防音室でもないと一般家庭では使うのが憚られる程です)
ターンテーブルはゼンマイの力で回転します。機種にもよりますが、クランク(ワインディングキーと言う)
で50〜80回ゼンマイを巻き、演奏開始です。ゼンマイは1丁(ゼンマイは丁と数えます)から4丁まで機種によ
り様々です。
1920年代後半にはこのターンテーブルを電気モーターで回す機種も登場しますが、家庭用電源の規格が完全に
統一されていなかったり、回転ノイズが大きかったりと問題もありました。再生も電気で行う「電蓄」は別と
して、この駆動のみモーターを使った物はモーターの寿命などもあり、今日あまり見かける事はありませんし、
ノイズの問題などから良く整備されたゼンマイの方が好ましいと言う方が結構いるようです。



サウンドボックス色々
この唄口とも呼ばれる、LPレコードで言う所のカードリッジに相当する部位が、
蓄音機の良し悪しを決定的に左右するとさえ言われます。
上からHMV No.5A 同No.5B その左下がNo.4 、右下がビクターのオルソフォニック
(日本ビクター製)No.4は振動板にマイカ(雲母)を使用してあり、
機械吹き込みのレコードを再生するのに適している。No.5やオルソフォニック
は振動板がジュラルミンで電気録音時代に対応した、”新しい時代”のサウンド
ボックス。
右上はターンテーブルの回転数を確認するときに使うスピードテスターで、
遠心力を利用した仕組みで78回転を計測できます。



No5AとNo.5Bの差は?最も大きな違いは振動板のエッジ形状。Aはスパイラル状、
Bは菱形です。その他にも細々と差異はありますが、この違いは音に大きな影響が
有る様で、A,Bのサウンドボックスの特徴になっています。
一般的にはAの方がきめ細かな美音を奏でるのに対し、Bはどんな音源に対しても
そつなく鳴り響くと言われています。特にクラシックファンの間では5Aは珍重され
ています。



蓄音機の中身です。この時代のタイプは結構ドンガラでスッカラカンです…
なんだか難しそうなメカ満載の様なイメージがあるようですが、そんなものは
ありません。音はサウンドボックスからトーンアームを経てホーンに入ります。(黄色の線)
ホーンはまるで蛇のようにくねくねうねりながら徐々に面積を広げ、開口部に至ります。
この細い側から太い開口部までの断面積と、ホーンの長さの比は「エクスポーネンシャル」
と言う理論に基づいて決められており、闇雲に広がっているわけでは有りません。
くねくねしているのは真直ぐだと本体に収まらないための工夫なのです。この工夫の
お陰で小さな躯体に想像以上に長いホーンを収めることが出来るのです。
(長いほど低音の再生に有利なため、高温域を犠牲にしない範囲でホーンは長いほど良く
また整合性の観点からより巨大な音を出す事が出来るようになる))
この様な発明がされて蓄音機はあの巨大なラッパと決別する事になったのです。
この発想を更に進化させて、「リエントラント」と言うホーン形状が開発されます。
ここまで来ると一見ホーンには見えないのですが、その内部構造は見事なホーン構造で、
信じがたい長大なホーンをコンパクトにまとめることに成功しました。




ターンテーブルをはずした状態です。
ターンテーブルは基本的にスピンドルに乗っかっているだけで、非常にシンプル。
蓄音機の歴史は、自動化の歴史でも有るのですが、この機種はストップだけが自動化
されています。演奏のスタート時にはマニュアルブレーキを手で解除してターンテーブルを
回転させます。演奏が終わり、サウンドボックスがレコード終端の偏芯溝に行くと、
連動しているオートストップ機構が働き、ターンテーブルにブレーキをかけ、ストップします。
(偏芯溝がないレコードは止まりません…)



◆再生針
蓄音器の再生針はいわゆる鉄針というコンパスの先のような文字通り「針」を使用します。そんな物でレコー
ドは痛まないのか?と思われるかもしれませんが、逆に針のほうが削られるほどシェラックは硬いのです。
(もちろん長期的にはレコードも削られ、痛んでいきますが)したがって、鉄針は「レコード1面に1本」と言
うのがお約束です。両面盤10枚聴いたら20本使うと言う事になります!すごく贅沢な気が…
この針の形状で音質や音量をある程度コントロールできます。ですので全盛期には様々な形状、素材の針があ
りました。中でも良く出てくるのは竹針で、乾燥させた硬い竹を専用のカッターでぱちんと切って先端を尖ら
せ、針として使用します。柔らかな音質となり、熱烈な竹針ファンもいます。戦時中の物資供出による鉄針の
代用品と思われている方もいるようですが、それは誤りです。
サボテンの棘を乾燥させて作ったサボテン針(ソーン針と言う)もあり、大変良い音がするのですが、1面ごと
に先端をシャープナーで研がねばならず、現在ではその特殊性もあいまってあまり見かける事はありません。
あっても結構高額です。素材にタングステンを使用したタングステン針と呼ばれる物も高級品として売られて
いました。1本で100面持ちますと言う物もありましたが、実際はそこまでの耐久性はなかったようです。
その他陶製針、ガラス針などの変り種もありました。




      蓄音器のスタイル


蓄音器はポータブル、卓上型、アップライト型に大別されます。
ポータブルは文字通り携帯できる(と言っても結構重い)蓄音器
で、現代風に言えばラジカセです。したがって音量、音質とも
あまり期待は出来ませんが、一部高級機種では相当良い物も存在
します。かなりの生産台数ですので、現在一番残っている蓄音機
ではないでしょうか。
卓上型は卓上もしくはレコード入れを兼ねた棚の上で使用する
もので(日本では床の間使用が多かったようです)ポータブルに
比べると音質も良く、ビクターのVV1-90型の様に中には名機と呼ば
れるものも存在します。
アップライトもしくはフロア型と呼ばれる大型の蓄音器は、各社
のフラッグシップ機を筆頭に本格オーディオ装置としてその時代の
最新技術が盛り込まれました。価格も最上機種では家1件分とも言
われ、贅を凝らした木工技術で作られたキャビネットは今日見ても
圧巻です。このアップライトの派生として横型のコンソールタイプ
も一世を風靡した時代がありました。(冷蔵庫のようなアップライ
トでは無く、ちょっとした調度家具のようなコンソールはご婦人方
に受けたそうです)


当時のカタログより


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